Geminiが共有フォルダを検索してくれる時代、それでも「フォルダ整理」をやる本当の意味

先日、Google Workspaceで会社のIT環境を整えている、ある経営者の方とお話ししていた時のことです。

「Googleドライブには、いまGeminiが常駐しているでしょう。Geminiに聞けば、どこに何があるかを教えてくれる。だったら、もうフォルダ整理に力を入れなくてもいいのでは?」

確かに、その通りです。GoogleドライブにおけるGeminiの検索性能は、年々目覚ましく進化しており、「とりあえずどこかに入れておけば、後でGeminiが見つけてくれる」――そんな時代は、実際にもう来ています。

しかし、私はこの問いに対して、「だからフォルダ整理は要らない」とは考えていません。むしろ、Geminiが共有フォルダを検索してくれる時代だからこそ、「フォルダを整える」という行為の意味は、別の次元に立ち上がってくると考えています。

本記事では、その理由を、現場で考えてきたことに基づいてお伝えします。


Googleドライブに常駐するGemini――確かに、検索だけなら困らない時代になった

まず、前提を共有させてください。

Google Workspaceを導入している事業者さまにとって、Googleドライブ上の各種ファイルは、Geminiの検索対象に含まれています。「先月の取引先〇〇への提案資料、どこに入っているか教えて」と聞けば、それなりの精度で該当ファイルを示してくれる。そんな世界が、確かに実現しつつあります。

これは、共有フォルダの運用において、長年の悩みであった「どこに何があるか、誰にも分からない」という状況に対して、強力な打開策となり得るものです。

私自身、この技術の進歩は素直にすごいと感じています。「Geminiがあれば、フォルダ整理にそこまで力を入れなくていいのでは?」と考える経営者の方の感覚は、決して的外れではありません。

実際、「ファイルを見つける」という一点だけを切り取れば、Geminiに頼り切ることで、ある程度は乗り切れるようになってきたのも事実です。

しかし、ここで一つ、お聞きしたいことがあります。「Geminiで検索できる」ということと、「会社の共有フォルダが整っている」ということは、本当に同じ意味なのでしょうか。

「検索できる」と「整っている」は、まったく別の話!

「検索できる」というのは、あくまで「個人が、必要なファイルを見つけられる」という、個人レベルの利便性の話です。一方で、「共有フォルダが整っている」というのは、組織全体としてのデータの状態を意味します。

ここで起こりやすいのは、「個人としては困らないのだから、組織としての状態は気にしなくていい」という発想が、少しずつ組織に広がっていくことです。(「フォルダをキレイにしなきゃ」と考える動機がなくなるため)

例えば、ある社員が「ファイル名は適当でいいや。だってGeminiに聞けばなんとかなるし。」「保存先フォルダもどこでもいいや。だってGeminiが教えてくれるし。」と考え始めたとします。一人だけならまだしも、これが組織全体に広がると、どうなるでしょうか。

答えは、「会社全体として、社長を含むすべての人間が、フォルダがどうなっていてどこに何があるか理解していない状態(自分の会社のことなのに!に陥る」です。組織として、会社全体のデータを誰も俯瞰できていないという、非常に危うい状態です。

つまり、Geminiの検索性能が上がれば上がるほど、「個人としては困らないので、組織としての状態を気にする動機がなくなる」という現象が、静かに、しかし確実に進んでしまうのです。


Geminiに頼り切る組織が、無自覚に失っていく3つのもの

Geminiに頼り切る運用を続けると、社員一人一人の中で「ある変化」が静かに進んでいきます。それらは、本人も気づかないうちに、以下に示す「3つの能力・感覚が少しずつ失われていく」という変化です。

① 会社全体を俯瞰して理解する力

社員が共有フォルダを開き、自分でフォルダ階層をたどってファイルを探す行為には、副次的な効果があります。それは、「会社全体でどういう資料が扱われているか」を、自然と把握できることです。

「他部署はこういう仕事をしているんだな」「うちの会社って、こんな種類の資料を持っているんだな」――こうした感覚は、フォルダを日常的にたどる中で、誰に教えられるでもなく身についていくものです。

ところが、Geminiにピンポイントで聞いて、ピンポイントで答えだけを得る運用が続くと、社員は「自分の仕事に直結するファイル以外には、まったく触れない」ことになります。結果、「会社全体の業務の広がり」を理解する機会が、根本から失われていきます。

② 他人が見ても分かるように仕事をする意識

「自分が後で探せればいい」と考えてファイルを保存するのと、「他の社員が見ても、すぐに分かるように保存する」のとでは、ファイル名のつけ方も、保存場所の選び方も、まったく変わってきます。

整ったフォルダ環境を維持しようとすると、社員は常に「他人が見たときに、これで意図が伝わるか」を意識せざるを得ません。この「他人を意識する習慣」は、共有フォルダの中だけにとどまる話ではなく、社員の仕事の進め方全般に影響を及ぼす、極めて本質的な感覚です。

しかし、Geminiが検索でカバーしてくれるなら、この習慣は不要になります。ファイル名が雑でも、保存場所が適当でも、Geminiが何とかしてくれる。すると、社員は「他人を意識して仕事をする」という大事な感覚を、少しずつ手放していくことになります。

③ 未来の誰かに配慮する意識

整ったフォルダ環境の維持は、「半年後の自分」「数年後にこの仕事を引き継ぐ誰か」「他部署からこのデータを参照する人」――こうした、業務の延長線上にいる「未来の誰か」に対する配慮そのものです。

「今、自分が分かればいい」ではなく、「未来の誰かのために、今ちゃんと整えておく」という発想は、社員一人一人の素地を大きく成長させます。

ところが、Geminiに頼り切る運用では、「未来の誰かのために」という発想が育ちません。なぜなら、「未来の誰か」が困っても、Geminiが何とかしてくれる前提になってしまうからです。

そして、こうした「他人を意識する習慣」というのは、不思議なもので、業務の中だけにとどまりません。社内の同僚や、未来の引き継ぎ相手を意識して仕事をする姿勢は、巡り巡って、「顧客」に対する仕事の質にもにじみ出てくる可能性があります。一見、関係なさそうに見えるのですが、現場で長く支援していると、こうした連動性は密かに感じる部分です。


フォルダ整理は「IT整備」ではなく「組織文化づくり」である

ここまでお読みいただいて、お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。

私が「会社の共有フォルダ整理」を重視している本当の理由は、単なる「ファイル探しの効率化」ではないのです。

もちろん、フォルダ整理の直接的な効果として、「ファイル探しの時間が大幅に減る」という業務効率化はあります。これだけでも十分に意味があります。しかし、私が現場で何年も支援を続けてきて感じているのは、フォルダ整理がもたらす本当の価値は、もっと深いところにあるということです。

それは、「フォルダを整えるという行為そのものが、社員一人一人の素地を耕す」という効果です。

  • 「他人が見ても分かるように仕事をする」という習慣
  • 「会社全体を俯瞰して理解する」という視点
  • 「未来の誰かに配慮する」という意識

これらは、共有フォルダの中だけにとどまる話ではありません。「他人を意識して仕事をする」という姿勢は、社内の同僚や引き継ぎ相手だけでなく、長い目で見れば、顧客と向き合う場面での仕事の質にも、少なからずつながっていくものだと感じています。

つまり、フォルダ整理は単なる「IT整備」ではありません。社員一人一人の素地を耕し、組織の文化そのものを育てていく取り組みだと、私は考えています。

だからこそ、「Geminiに任せれば整理は不要」という考え方には、慎重であってほしいのです。一見すると効率的に見えるその選択は、長い目で見ると、組織の素地を耕す貴重な機会を、静かに手放してしまうことにもなりかねません。


Geminiは「整理しなくていい理由」ではなく「整理された組織をさらに強くする道具」として使う

最後に、本記事の結論をお伝えします。

Geminiは、「組織をぐうたらにする、厄介な存在」ではありません。適切に使えば、会社のIT環境を大きく強化してくれる強力な道具です。適切に使わなければ、「組織をぐうたらにする、厄介な存在」となります。問題は、「Geminiをどういう順序で、何のために使うか」です。

整理されていない共有フォルダにGeminiを乗せても、得られるのは「個人レベルの検索の便利さ」だけです。その裏で、組織の素地を耕す機会は失われていきます。これは、長期的に見れば、決して安くない代償です。

一方、「会社全体としてフォルダを整える文化」を育てた上で、その整った環境でGeminiを使えば、話はまったく変わります。整理されたデータは、Geminiにとっても「読みやすい教材」です。Geminiは、より精緻で実務的な回答を返してくれるようになります。

これこそが、私が普段から申し上げている「データ基盤が先、AIは後」という考え方の、本当の意味です。整ったデータという「幹」があって初めて、AIという「枝葉」が利益を生む果実となるのです。

つまり、目指すべきは次の順序です。

まず、共有フォルダを整える文化を組織に根づかせる。 その上で、Geminiを「整った組織をさらに強くする道具」として活かす。

この順序を踏まえて初めて、Geminiの真価が発揮されます。そして、その過程で耕された社員一人一人の素地は、AIに代替されることのない、組織の本当の財産として残っていきます。

「Geminiがあれば、フォルダ整理は要らない」という問いに対する、私の答えはこうです。

Geminiが共有フォルダを検索してくれる時代だからこそ、「フォルダを整える」という行為の価値は、これまで以上に深いものになっている。

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