「IT導入の補助金を使いましょう」と言われたら──IT化で本当に見るべき「順序」の話

「デジタル化・AI導入補助金、うまく使って得したい!」

そう考える経営者の方は、とても多くいらっしゃいます。まとまった投資をするなら、少しでも負担を軽くしたい。その気持ちは、経営者として当然のものです。

ただ、私が中小企業のIT支援を長年やってきて感じるのは、「IT・システム構築」という分野に限っては、補助金という制度と、良いIT環境の作られ方とが、うまく噛み合いにくいということです。

これは、「手続が想像以上に大変」「補助金がほしいがために無駄な投資をする本末転倒」といった、よく語られる話とは少し別の、もっと根っこにある事情です。その正体は、補助金が事業者さまに「先に、要件を固めておくこと」を求める点にあります。

そしてもう一つ、この記事でお伝えしたいのが、「まず補助金を使いましょう」を入口にして話を進めてくる相手には、一度立ち止まってみるのがよい、ということです。順に見ていきます。

目次

補助金は「先に、全部決めておくこと」を求める制度

はじめに、補助金という制度そのものの性質を確認しておきます。ここは批判ではなく、事実の整理としてお読みください。

「デジタル化・AI導入補助金」にせよ他の補助金にせよ、基本的な仕組みは共通しています。申請の段階で「何を・いくらで・どう導入するか」を確定させ、後になって「申請どおりに実行したか」を問われる、というものです。

つまり制度の前提として、「事業者さまが、申請の時点で、導入すべきものを正確に把握できている」ことが暗黙のうちに求められています。何を買うか、いくらかかるか、それでどんな効果が出るか。これらを先に確定させ、その通りに進める。補助金とは、そういう「先に決めてから動く」タイプの制度です。

設備や機械の購入であれば、この進め方は比較的うまくいきます。「この機械を、この金額で買う」は、最初からはっきりしているからです。問題は、これがIT・システム構築の分野になると、途端に噛み合わなくなる、という点です。

ところが、良いIT環境は「走りながら見えてくる」もの

ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。

IT環境の構築において、「最初から、必要なものが全部見えている」ということは、まずありませんむしろ、手を動かしながら、少しずつ「本当に必要なもの」が見えてくる。これが現場のリアルです。

だからこそ、正しい進め方は、いきなりツールを導入することではありません。最初にやるべきは、「現状の整理」、そして「その現状に応じた対応」です(当事業所の場合、まずは「畑を耕す」ことから。具体的には「フォルダ整理」や「属人化したExcelの整備」に取り組むことが多いです)。散らかった情報を整理し、業務の流れを一つひとつ確認し、優先度を見極めながら対応方針を固めていく。すると、こういうことがよく起こります。

「当初はシステムで管理したいと言っていたけれど、精査したらその業務はフォルダ整理くらいで十分だった」

「逆に、最初は誰も問題視していなかった部分こそ、実は一番優先度高いものだった」

「新しいITツールを入れるつもりだったけれど、既にあるITツールの応用で十分だった」

こうした発見は、実際に畑を耕してみて、初めて分かることです。耕す前に「どの農具が必要か」を確定させることは、まずできません。土を掘ってみて、はじめて「ここには、この道具がいる」と分かる。IT環境づくりも、これと同じです。

「先に固める」制度と、「走りながら見える」IT化のすれ違い

ここまでで、二つのことをお話ししました。

一つは、補助金は「申請時に要件を確定させる」制度であること。もう一つは、良いIT環境は「走りながら要件が見えてくる」ものであること。

この二つを並べると、両者が根っこですれ違いやすいことが見えてきます。

補助金を活用しようとすると、事業者さまは「まだ畑を耕してもいないのに、買う農具のリストを先に確定して提出する」ことを求められます。しかし、本当に必要な農具は、耕してみないと分かりません。結果として、「とりあえず、それらしい要件で申請を固める」という進め方になりやすいのです。

そして、その「先に固めた要件」は、実際に手を動かし始めると、しばしば実態とズレていきます。「申請ではこのシステムを入れることになっているけれど、進めてみたら別のやり方の方が良かった」。けれど補助金の手前、当初の計画から大きくは動かせない。こうして、本来なら選ばなかったはずの遠回りを、選ばされてしまうことがあります。

念のため申し上げると、これは「補助金という制度が悪い」という話ではありません。設備投資のように要件が先に固まる分野では、補助金はとても合理的に機能します。ただ、IT・システム構築という営みが持つ「走りながら見えてくる」という性質と、相性が良くない。そういう構造的な事情がある、ということです。

「まず補助金を使いましょう」と言われたら、一度立ち止まる

もう一つ、お伝えしておきたいことがあります。

それは、「まず補助金を使いましょう」を入口に話を進めてくる相手には、一度立ち止まってみる価値があるということです。

本来の順序は、こうなるはずです。まず「自社にとって、どんなIT化が必要か」を見極める。その中で「まとまった投資が要る」と分かり、なおかつ「その投資内容がもう明確に見えている」場合に、はじめて「補助金という手段が使えるか」を検討する。順序としては、補助金はいつも「後」に来るものです。

ところが、この順序が逆になっているケースを、現場でよく見かけます。「補助金が出るので、何か導入しませんか」という提案から話が始まってしまう。これは、まだ何が必要かも分からないうちに、農具から先に決めようとしているのと同じです。

もちろん、補助金の情報を教えてくれること自体は、ありがたいことです。大切なのは、「補助金を使うこと」そのものが目的になっていないかという一点。提案する側も、される側も、そこは冷静に見ておきたいところです。「補助金があるから、何か入れなきゃ」。その気持ちが先に立った瞬間、順序は静かに崩れます。

なお、「補助金活用の前提となる投資判断そのもの(経営面から見て、その投資は本当に必要か)」については、別の記事で詳しくお話ししています。あわせてお読みいただくと、より立体的に見えてくるかと思います。

→ 当事業所の「IT導入補助金」申請支援

まとめ:順序が先、補助金はその後

IT化と補助金の相性は、「制度の善し悪し」ではなく、「順序」で決まる。

補助金は、悪いものではありません。畑が十分に耕せていて、次に入れるべき農具がもう明確に見えている事業者さまにとっては、負担を軽くしてくれる心強い手段です。

ただ、IT・システム構築という分野は、その性質上、「先に要件を固める」ことが難しい。だからこそ、「補助金を活かせる会社」と「そうでない会社」があり、その分かれ目は、「自社の要件を、先に固められる段階まで来ているかどうか」にあります。

まだそこまで来ていないなら、無理に補助金へ合わせにいく必要はありません。まずは畑を耕すこと。フォルダ整理や業務の見える化から始めれば、「本当に必要なもの」は、自然と姿を現します。

そして、ここは強調しておきたいのですが、順序さえ踏んでいれば、補助金はむしろ積極的に使っていいものです。畑を耕し、次に入れるべき農具がはっきり見えている。その状態まで来ているなら、補助金は投資の負担を軽くしてくれる、頼れる味方になります。

大切なのは、補助金を「入口」にしないこと。ただそれだけです。見極めを先に済ませてさえいれば、補助金は、安心して手に取れる選択肢になります。

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当事業所が、AIとどう向き合い、どんな形でAI環境構築を支援しているかは、こちらのページで詳しくご紹介しています。

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