「売上トップの事業が、実は一番の赤字だった」——事業別の「利益」見える化の本当の難所
ある会社の話です。長年、社長以下全員が「うちの稼ぎ頭」と信じていた事業がありました。安定的に売上を獲得しており、皆「この仕事が会社を支えている!」と信じていました。ところが、事業別に利益を計算してみると、実は利益を出していないことが判明しました。なんと、この会社を静かに支えていたのは、売上規模ではあまり目立たない、別の地味な事業のほうだったのです……。そちらの事業の方が、利益を多く獲得しており、会社を支えていたのです。

これは少し極端な話だったと思いますが、「A事業が儲かってると思っていたのに………」——複数の事業(あるいは複数の商品・サービス)を持つ経営者の方なら、こういう状況はイメージしやすいのではと思います。
「会社全体では、なんとなく黒字。だから大きな問題はない。」と、多くの中小企業がこのような感覚を持ち合わせたまま経営を続けているような気がしています。しかしその発想は、事業ごとに「利益」を分けて見ることが出来れば、良くも悪くも景色がガラリと変わることがあるかもしれません。
この記事では、「事業別に利益を見える化する」ことの重要性をお伝えします。ただし、それに加えて、「じゃあ、どうやればそのような”事業別に利益を見える化する”ことが出来るのか?」という話もします。なぜなら、多くのWEB記事にて、「事業別の利益の見える化」の重要性を伝えてはいても、「それをどう実現するか」までは踏み込んでいないことが多いと感じているからです。
ここでは、中小企業の経営と現場を見て実際に多くのIT環境を構築してきた専門家として、また中小企業診断士として経営管理の重要性を広めていく立場の者として、実際に中小企業の支援現場で痛感してきたことを含め、順を追って説明していきます。
売上が大きい事業=儲かっている事業、とは限らない
多くの会社が、まず「売上」は把握しています。「事業別の”売上”ランキングくらいなら頭に入っている」という経営者の方も多いでしょう。
でも、「売上」ということで、ここに落とし穴があります。「事業別の”売上”の見える化」で満足すると、経営判断を誤ることがあるのです。
なぜなら、「”売上”が出ているからといって、実は”利益”は出ていない」というケースは普通に存在するからです。冒頭の会社の事例がまさにそうでした。よくあるのは、以下のようなパターンです。
- 「一番売上の大きい事業」——実は原価や外注費がかさみ、手元にほとんど利益が残らない
- 「限界利益率がめちゃくちゃ高い事業」——それだけ見れば優秀だが、共通でかかる本社コストなどを各事業に割り振ると赤字に転落
- 「売上が小さく地味な事業」——逆に、実は利益率が高く、本社コストを負担してもなお、会社全体を静かに支えていた
「売上がすごいから、儲かっているはずだ」という感覚は、案外あてになりません。売上は「入ってきたお金」でしかありません。そこからいくら出ていって、最後にいくら残ったのか。それを事業ごとに見なければ、本当の姿は見えてこないのです。
着目しなければならないのは、「事業別の”利益”の見える化」です。
事業別の利益を出すには、4つのステップがいる
では、事業別の「利益」を把握するには何をすればいいのか。順番に積み上げると、大きく4つのステップになります。

どの事業が、いくら売り上げているか。ここは多くの会社ができています。
売上に応じて増減する費用——原価、仕入、外注費など——を事業ごとに把握します。
この変動費を算出すれば、次にやることは、売上から変動費を引くこと。その結果、「限界利益」が算出されます。そして「限界利益率=限界利益÷売上」を算出すると、これによりその事業が「売れば売るほどお金が残るのか」が分かります。
売上の増減に関係なく発生する固定費のうち、その事業に直接ひもづくもの——専任スタッフの人件費、その事業でしか使わない設備のリース料など——を把握します。
最後に、どの事業にも直接ひもづかない共通の固定費(本社家賃、経理や総務の人件費、全社システム費用など)を、一定のルールで各事業へ割り振ります。これを「配賦(はいふ)」と言います。
ここまでやって、ようやく、事業別の「利益」が算出されることとなります。
ここまで積み上げて、ようやく「事業別の利益」が見えてくるわけですが、ここで大事なことが分かります。「限界利益率が高い事業=優秀な事業」とも限らない、ということです。
限界利益率がとても高く「この事業はいいぞ」と思っていても、配賦される共通固定費が大きいと、事業全体では赤字だった。逆に、限界利益率はそこそこでも、背負う固定費が軽く、しっかり利益を残している事業もあります。「売上」だけでも足りず、「限界利益率」だけでも判断を誤る。共通固定費の配賦まで含めて、初めて事業の本当の姿が見える。ここまでやって、ようやく「事業別の利益の見える化」というゴールにたどり着きます。
ここまで固定費を把握できると「損益分岐点売上高(=その事業が赤字を脱するにはいくら売ればいいか)」という武器も手に入ります。
各事業の「損益分岐点売上高」
=「 その事業の固定費 ÷ その事業の限界利益率」
【例】
A事業、B事業、C事業を持つ会社がある。この会社のA事業は、「限界利益率40%(100円売ったら40円が利益)」で、「固定費600万円」であるとする。この場合は
A事業の損益分岐点売上高=600万円 ÷ 0.4 → 1,500万円。
=「A事業は、年間1,500万円の売上を獲得して、ようやくトントン」ということ。
このように、目標ラインを数字で引けるようになります。「赤字っぽいけど、あといくら売れば黒字なんだっけ?」に、具体的な金額で答えられる。経営の見え方が変わる数字です。

しかし、本当の関門は別のところにある
ここまで読んで、こう思われたかもしれません。
「なるほど。事業別に利益を把握したり、事業別の損益分岐点売上高を出せるようにするには、そもそも、日々の売上データの登録で、きちんと”事業別”に記録して、費用データの登録も、”事業別”かつ”変動費か固定費か”を分けて記録すればいいんだな!」と。
その通りです。理屈としては、まさにその通り。ただ、ここからが本題です。
結論から申し上げると、ここまで説明してきた知識の理解と、その計算自体は、それほど難しくありません。売上、変動費、固定費、配賦、損益分岐点。考え方さえ分かれば、電卓でもExcelでも手書き計算でも、誰にでも簡単に計算できます。(ここまでは、良くある「お勉強」の知識です)
本当に難しいのは、その計算の「材料」の方です。厳密には、「そういう計算をするにあたっての、”材料”となるデータは、用意されているの?」という点です。
更に言い方を変えると、「事業別の利益を出すにあたり必要なデータは(事業ごとの売上や変動費や固定費など)、日々の業務の中で、集計できる形で自然に貯まっていく仕組みは存在するか?」というのが、最大の論点ということです。
「事業別に、変動費か固定費かを分けて記録すればいい」。言葉にすれば、たったこれだけです。ですが、それを「実際に会社で毎日回る形」に設計し切ることは、まったく別の難しさなのです。
なぜ、「データが集まる仕組みを作ること」が難しいのか
「記録のルールを決めて、現場に入力してもらうだけでは?」——そう思えるかもしれません。ですが、その「仕組みを作る」という仕事を分解していくと、いくつもの難所が姿を現します。
① そもそも「どのツールで蓄積するか」から、議論が始まる
データを蓄積するといっても、まず「どんなツールでデータを蓄積するのか?」を決めるところから始まります。そしてこれが、会社の実態次第でまったく変わってきます。
例えば、事務所でまとまった作業をするA事業なら、従来ながらのExcelが馴染むかもしれません。一方、外回りが中心のB事業なら、現場でその都度サッと入力できるスマホアプリのほうが向いているかもしれない。このように、同じ会社の中でも、事業の性質が違えば、適したツールは変わります。

しかも、例えば「スマホアプリ」と一口に言っても、ITツールによって見た目や操作感、いわば”空気感”がまるで違います。現場の人たちが日々触れるものだけに、この空気感が合わないと、それだけで敬遠され、入力が定着しない。理屈の上では正しいツールでも、現場の肌に合わなければ、データは貯まらないのです。会社の状況・事業の実態を正確に見極めて、初めて「この会社にとっての最適解」が見えてきます。
② 「理屈の理想形」と「現場が毎日回せる形」は、別物である
仮に理想的な記録ルールが決まったとします。ですが、それがそのまま現場で回るとは限りません。むしろ、理屈の上で完璧なルールほど、現場では続かないことがよくあります。
入力項目を細かくすればするほど、分析の精度は上がります。ですが同時に現場の入力負担は重くなり、ある一線を越えると「面倒だから、だんだん入力しなくなる」という状況に至ります。かといって、項目を絞りすぎれば、今度は肝心の事業別利益を算出するための材料データが集まりません。

このように、「見れば分かる/誰にでも取扱える」という軽さに収めつつ、分析に足る情報はしっかり収集できる環境というものは(その会社にとっての最適な姿)、会社の規模や現場のITリテラシーによって一社ごとに変わり、それを見極めることが実に難しいのです。
しかも、この仕組みは現場の人たちが日々動かすものです。その会社独自の事情・文化、そこで働く人たちの複雑な感情や関係性まで踏まえないと、絶対に続きません。どれだけ理屈が正しくても、現場の気持ちが置いてけぼりでは、入力はいずれ止まる。人と組織のリアルまで織り込んで、初めて「本当に回る形」にたどり着けるのです。
結局、問われるのは「この会社の解」を描き切る力
ツールの選定にしても、現場が続けられる形にしても、正解は教科書ではなく、その会社の中にしかありません。事業の実態、現場のリテラシー、使える予算、その会社の文化、そして現場の人たちの気持ち。それらすべてを踏まえて、「この会社で本当に毎日回る、現実的な解」を一つに描き切ること。これが、”データが集まる仕組みを作る”という仕事の正体です。
「派手なAI」でも「高機能なツール」でもなく、この地味で泥臭い設計をやり切れるかどうか。それが、見える化を“一度きりの労作”で終わらせるか、”当たり前に回る仕組み”にできるかの分かれ道になります。理屈を語るのは簡単です。ですが、現場と経営の両方を見ながら、その会社にとっての最適解を現実に成立させる。ここにこそ、いちばんの難しさがあります。
そして、それは「やりましょう」と言って、簡単に出来ることではありません。
会社内で、経営者を中心に「事業別の利益を見える化するために、日々のデータ蓄積基盤(=日々の皆の業務環境の整備)から、着実に見直しを図る」という号令と共に、全体観点・中長期観点・リーダーシップ・IT構築スキル、その全てを総動員して環境を構築する必要があります。
「この会社の解」を見つけるための、当事業所による実際の支援事例を紹介します。
事業者さまとの地道なコミュニケーションを軸に、事業者さまの理想と実態に沿った「会社内で適切にデータが蓄積される体制」を見極め、「事業別の利益の見える化」まで含めて全体的にIT環境を整備した事例です。
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まとめ:見える化の順番は、いつも「データの土台」が先
事業別に利益を見える化できると、経営の見え方が大きく変わります。売上に隠れていた「本当に儲かっている事業」「実は足を引っ張っている事業」が姿を現し、損益分岐点という明確な目標ラインまで手に入ります。「なんとなく全体で黒字」から、「どの事業が、なぜ、どれだけ稼いでいるか」を語れる経営へ。この差は、とても大きいものです。
ただし、それを正しく実現し、続けていくためのカギは、計算スキルでも、高機能なツールでもありません。「どのツールで蓄積するか」から、「現場が毎日無理なく続けられるか」まで、その会社の実態に合わせて、毎日回る自然な仕組みを設計し切ること。ここに尽きます。
これは、当事業所が一貫してお伝えしていることと、まったく同じ順序です。農業に例えるなら、データの土台を整えることは「畑を耕すこと」。どれだけ良い集計表やAIツール(種)を用意しても、畑が荒れていては実りません。しっかりと畑を整えることを大事にしていれば、「事業別の利益の見える化」は、目の前です。
派手な集計表や新しいツールに目が向く前に、まず足元の「日々のデータの貯まり方」を見直してみませんか。それが、会社全体を強くする一番の近道です。
プロへ相談してみたい方へ
「事業別の利益の見える化」を可能とする「盤石でスマートなIT環境」を、腰を据えて構築したいとお考えの方は、こちらをご確認ください。
土台から整えたい方へ
「事業別の利益の見える化」を情報を守る第一歩は、まずは「事業別に存在する各種ファイル(データ)を、きちんと事業別に整理する」ところからです。ご興味のある方は、まずは当事業所による「フォルダ整理コンサルティングサービス」をご確認ください。
